出産の経過中に医療処置が必要になるトラブルが発生することがあります。
こういったトラブルは、本人のみならず、夫や家族も心配します。
それでは、出産でのトラブルとはどのようなものがあるのでしょうか?
簡単に説明していきます。
微弱陣痛
陣痛は出産の進行とともに次第に発作が強く、持続が長く、周期が短くなっていきます。
しかし、微弱のまま出産が進行しない状態を「微弱陣痛」といいます。
このトラブルは、下記の症状が原因とされています。
- 子宮筋腫や子宮腺筋症などの子宮の疾患
- 多胎妊娠
- 羊水過多症
- 狭骨盤(骨盤が小さいこと)
- 巨大児などによる子宮筋の過伸展(子宮筋が伸びすぎること)
- 赤ちゃんの回旋異常
- お母さんの恐怖や精神的不安
- 疲労
- 睡眠不足
- 貧血
このトラブルを自分でできる改善策としては、次のようなものが挙げられます。
- ストレッチを行う
- 体を適度に動かす
- 水分補給をする
- 軽食をとる
- リラックスをする
夫や家族に心配をかけないように、このようなことを心がけていきましょう。
陣痛が強まらなければ、少ない量から陣痛促進剤の経静脈投与を開始し、徐々に投与量を増やして、陣痛を強めます。
この時に胎児の心拍数と子宮収縮をモニタリングします。子宮口が全開して赤ちゃんの頭が下降し、経膣分娩が可能な段階まで進行すると、鉗子(かんし)・吸引分娩を行うことがあります。
また、微弱陣痛の原因によっては、帝王切開が必要な場合もあります。
微弱陣痛になる要因はさまざまですが、自分で改善できることを積極的に行っていきましょう。
軟産道強靭(なんさんどうきょうじん)
軟産道とは、子宮下部、子宮頸部、膣及び会陰などの赤ちゃんの通り道をいいます。
出産の時に赤ちゃんの頭が子宮から膣へ出てくるためには、子宮口は直径10センチの広さに開くことが必要です。
しかし、子宮口が固くて開かず、出産が進行しないトラブルを「軟産道強靭(なんさんどうきょうじん)」といいます。
特に高齢出産では、子宮口が開きにくい傾向にあります。また、子宮頸部円錐切除術を行った人も、子宮口が開きやすくなって早産になりやすい場合と、逆に子宮口が固く開きにくくなることがあります。
さらに、緊張が強い場合にも、子宮口が開きにくいことがあります。軟産道強靭では、自分の意思での改善が難しいため、子宮口を開く処置(子宮頸管拡張)や、誘発分娩を行います。
陣痛がきても子宮口が開かなければ、帝王切開が必要となります。
軟産道強靭は、高齢出産であればあるほどなりやすい傾向にあります。
児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)
児頭骨盤不均衡(じとうこつばんふきんこう)とは、赤ちゃんの頭が母親の骨盤より大きいため、陣痛があっても赤ちゃんの頭が下降しない状態のトラブルをいいます。
骨盤の大きさと赤ちゃんの頭の大きさとのバランスで決まります。
一般的には、母親の身長が低いと、骨盤が小さい傾向があり、このトラブルになりやすくなります。
ただし、骨盤が小さくても赤ちゃんが通過できる余裕があれば、問題ありません。
骨盤X線写真で児頭骨盤不均衡と診断された場合は、帝王切開が必要になります。場合によっては、ダブルセットアップとして帝王切開の準備を整えた上で、分娩進行を見ていきます。
母親の身長が小さいと、骨盤が小さいことが多いため、児頭骨盤不均衡になりやすいです。
過強陣痛
強い発作(子宮収縮)が、短い周期で頻繁に、または長い持続時間でくる場合を「過強陣痛」といいます。
このトラブルは、下記の理由から起こることが考えられます。
- 赤ちゃんの頭が骨盤より大きい
- 骨盤が小さい
- 子宮口が開きにくい
産道の抵抗が大きくなった場合や、陣痛促進剤を使用しているときに、このトラブルが起こることがあります。
陣痛促進剤を使用している場合には使用を取りやめ、経膣分娩が可能かどうかを判断していきます。
過強陣痛になった場合、陣痛促進剤を使用しているのであれば、すぐに止めてください。
回旋異常
赤ちゃんは狭い産道を、背中を丸めてあごを胸につけるようにし、横向きからうつ伏せの向きに、少しずつ回りながら、下降して頭を出します。これが狭い産道を通過するのに最も効率の良い方法だからです。
このような赤ちゃんの頭の回旋がうまくいかないトラブルを、「回旋異常」といいます。
赤ちゃんの頭部や背骨が後ろに反り返っている状態や、顔が上を向いた状態では、なかなか頭が下がってきません。
このトラブルの改善策として、お母さんが横向きや四つん這いなどの姿勢をとることで、本来の向きに戻ることもあります。
赤ちゃんの顔が上を向いたまま下降してきた場合には、微弱陣痛となりやすく、子宮口が全開し、時間が長くかかるようであれば、鉗子(かんし)・吸引分娩を行います。
子宮口が全開しない場合は、帝王切開となります。
回旋異常になった場合には、姿勢をいろいろと変えてみればよいです。
臍帯下垂(さいたいかすい)・臍帯脱出
破水前に、膣から卵膜を隔ててへその緒(臍帯)が透けて見える、あるいは触って分かる状態を臍帯下垂(さいたいかすい)といいます。
普通は赤ちゃんの頭がまず下がってくるのですが、へその緒が先に下がってくる状態のトラブルです。
さらに破水して、へその緒が脱出し、子宮口から膣に下がってきた状態を「臍帯脱出」といいます。
臍帯下垂は、次のようなことで起こりやすくなります。
- 多胎妊娠
- 骨盤位(逆子で、赤ちゃんの足やお尻が先進している状態)
- 前置胎盤
- 羊水過多症
- 低置胎盤(胎盤が子宮下部に付着しているが内子宮口には達していない状態)
へその緒が圧迫されるので、赤ちゃんに酸素が流れにくくなりストレスがかかってきます。特に「臍帯脱出」の場合は、迅速な帝王切開が必要になってきます。
臍帯脱出になった場合は、帝王切開になります。
臍帯巻絡(さいたいけんらく)
分娩時に、へその緒が赤ちゃんの体に巻きついた状態を「臍帯巻絡(さいたいけんらく)」といいます。
このトラブルは、全出産の20%~25%に見られ、特に首に巻き付いていることが多いです。
陣痛発作により、胎児の血流が一時的に圧迫されることもありますが、普通の出産で赤ちゃんは元気に誕生することがほとんどです。
3周以上巻き付いており、分娩監視装置で胎児の除脈が頻回に起こり、胎児へのストレスが見られる場合には、鉗子(かんし)・吸引分娩が選択され、子宮口が全開する前であれば、帝王切開が選択されます。
臍帯巻絡になったとしても、普通は元気な赤ちゃんが生まれてきます。
胎児機能不全
妊娠中や出産の進行中に、胎児の健康状態を評価する検査として、子宮収縮と胎児心拍のモニタリングがあります。
この検査で、赤ちゃんに健康上の問題がある、今後あり得ると判断された状態を「胎児機能不全」と定義しています。
このトラブルは、胎児の心拍数が少なくなる胎児除脈や、心拍数が頻回になる胎児頸脈では注意が必要です。
破水後や予定日超過などで、羊水が少なく、へその緒が圧迫されやすい、あるいは妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)になって、子宮の血流が悪くなったときなどに起こります。
赤ちゃんへの酸素の供給が不足することにより、赤ちゃんへストレスが加わります。予定日近くまで、お腹の中でお母さんから栄養をもらって成長した赤ちゃんは、少々のストレスには耐えられる予備力を備えています。
どんな時にも慌てずにゆったりとした深い呼吸をお母さんが心がけることで、赤ちゃんに効率よく酸素を届けることができます。赤ちゃんをすぐに出生させる必要があれば、鉗子・吸引分娩が、子宮口が全開となっていなければ、帝王切開が行われます。
赤ちゃんに酸素を送り届けるために、お母さんはゆっくりと深呼吸を行ってください。
産道損傷
出産の経過によっては、子宮頸管、膣壁、会陰などの軟産道に傷ができることがあり、このトラブルを「産道損傷」といいます。
このトラブルは初回の経膣分娩、特に高齢出産の方に起こりやすいです。また鉗子・吸引分娩の時に起こることもあります。
医療処置としては、胎盤が出た後に麻酔薬で痛みを取り、縫合止血を行います。損傷の部位や大きさによっては、出血が多くなることがあります。
なかには、輸血が必要となる場合もありますが、適切に処置すれば心配ありません。膣や会陰は、血流の豊富なところですから、傷ができても、時間とともにきれいに治ります。
産道損傷は、高齢出産の方に起こりやすいです。
弛緩(しかん)出血
出産後の子宮は、胎盤のはがれた部分に断裂した血管がむき出しになっていますが、子宮筋が収縮することで、この断裂した血管も周りの筋肉の収縮により閉鎖して、出血が止まります。
胎盤が出た後に、子宮筋の収縮が悪くて大量の出血が起こることを「弛緩出血(しかんしゅっけつ)」といいます。
このトラブルは、下記の原因が挙げられます。
- 子宮筋腫や子宮腺筋症を合併している場合
- 微弱陣痛で赤ちゃんの分娩まで長時間かかる場合
- 羊水量が多い
- 赤ちゃんが大きい
- 胎盤の一部が残っている
その時の処置としては、お母さんの静脈ルートを確保して、子宮収縮薬を投与したり、子宮底をマッサージしたり、子宮を前後から圧迫したりします。
また胎盤の遺残(いざん)があれば、それを排除します。これらの処置を行っても、止血できない場合には、輸血を行う必要があります。
止血できない場合には、輸血を行います。
大量出血と輸血
一般に生理現象と考えられる出血量は、単体経膣分娩で800ml、単体帝王切開で1,500ml(羊水量込み)、多胎経膣分娩で1,600ml、多胎帝王切開で2,330ml(羊水量込み)とされています。
輸血を行うかどうかは、母体の血圧の低下(低血圧)、脈拍の上昇、ショックインデックス値(脈拍数を収縮期血圧で割った値。SI値)の上昇、止血ができているかあるいはまだ出血が持続しているか、などで総合的に判断します。
その中でSI値は重要な指標の1つです。 SI値が1.0を超えると(出血量がおよそ1,500ml)輸血を準備し、SI値が1.5を超えると(出血量がおよそ2,500ml)輸血を開始する目安となります。
実際には約300人に1人の割合で、出産時に大量出血が起こっています。
輸血のタイミングを逸すると、出血の悪循環に陥り、血が止まりにくくなり、母体が命の危険にさらされることがあります。
日本は世界で最も母体死亡数の少ない国の1つですが、出産するということは、誰にでも少ない頻度で輸血が必要となることがあるということを理解して欲しいと思います。
自分の出産時にも、輸血が必要になるかもしれないと心の準備をしておきましょう。
慌てないことが大事
出産がいつ始まるか、どのように進むかは、人それぞれです。破水が先なのか、陣痛が先にくるのかは、始まってみないとわからないこともたくさんあります。
出産が始まる前から帝王切開が選択される場合もありますし、自然分娩を予定していても、分娩経過の中で緊急に帝王切開が必要となる場合もあります。
自分だけでなく夫や家族も心配しますから、どんな場合であっても心の準備が必要になってきます。
規則的な10分おきの陣痛を感じるようになれば、いよいよ陣痛発来です。陣痛の間隔が10分より短くなってくるようであれば、入院のタイミングとなります。
また破水した場合は、すぐに産科施設に行くことです。そこでお産のための入院となり、出産経過を見ていくことになります。
具体的には、胎児の心拍数と子宮収縮(陣痛)を定期的にモニタリングして、内診で子宮口の開き具合や赤ちゃんの頭の下降具合を確認していきます。
そして、お母さんと赤ちゃんが元気な状態で、お産が順調に進行しているかどうかを判断していきます。
このように、どんな出産になっても慌てないことが大切です。周りの家族も心配しますので、いろんな場合を想定して心に留めておきましょう。
出産時のトラブルはいつやってくるか分かりませんので、事前に心の準備をしておくことです。