高齢出産であればあるほど、出産に関する悩み事は多いものです。
どのような悩み事であっても、夫婦2人で決めるべき問題であり、最終的に2人で決めたのであれば、医師はあなたの気持ちを尊重してくれます。
それでは高齢出産での悩み事とはどのようなものがあるのでしょうか?
またその解決策はどのようになるのでしょうか?簡単に説明していきます。
出生前診断を受けるか否か
出生前診断を受けるときは、どんな結果がが出たとしても、受け止める心の準備が必要です。
後から検査を受けなければよかったと思っても、もう時間を戻す事は出来ません。出生前診断を受けるかどうかは、夫婦2人で決めるべき問題です。
双方の両親のそれぞれの立場での考えを聞くことがあっても、最終的に決めるのは夫婦2人です。そして出生前診断が必要だと2人で決めたのであれば、医師はあなた方の気持ちを尊重してくれると思います。
染色体異常があると診断された上で、赤ちゃんを産む決断をしたときには、出産前後のお母さんや赤ちゃんに対する専門的医療に対応する「周産期母子医療センター」で診断してもらうのが良いでしょう。
人間は精子と卵子から作られた1個の受精卵からスタートします。精子と卵子が持つ多様な染色体の組み合わせから、ただ1つの組み合わせの受精卵が作られるのです。そして人間という集団は、多様な個体が集まって形成されています。
その多様性こそが、大きな自然変動などが発生しても集団の中で誰かが生き残る、という生き残りをかけた戦略であると考えられています。
現在の環境に適した健康な人が生まれる一方で、ある一定の割合で、何らかの病気にかかっている赤ちゃんが生まれてくるのです。別の環境なら、立場が逆転しているかもしれません。
欧米の中には、出生前診断を無料で行う国があります。高額の検査料が無料という事は、恵まれているように考えられますが、見方を変えれば病気を持つ赤ちゃんを産み育てにくい社会と言えるでしょう。
現在、出生前診断で対象としているのは、ダウン症候群などの染色体異常ですが、他にも治療が難しい病気はたくさんあります。
今後技術が進歩していく中で、出生前診断で対象とする病気は、さらに増えてくると考えられます。これらの技術を倫理的問題を含めて、どう整備していくのかについても社会全体で考えていく必要があります。
出生前診断を受診するか否かは、夫婦2人でしっかりと話し合ってください。
障害のある子を育てるということ
高齢出産をされた方でも、ダウン症候群のお子さんを愛情いっぱいに育て、いきいきと生活されている人はたくさんおられます。
ダウン症候群は個人差もありますが、軽度から中等度の知的障害のほか、先天性の心疾患が50%、消化器疾患が10%の頻度で見られます。またその他の疾患が見つかることもあります。
高齢出産を控えた方であればあるほど、ダウン症候群になるかどうかは悩み事の大きな1つだと思います。
しかし現在では、合併症を適切に治療し、発達がゆっくりであることに配慮した教育や療育を行う体制が整備されてきています。
そんな方々の中には、家族と幸せに過ごされている方や、書道、ピアノ、ダンスなどの芸術の分野で充実した仕事をしている方や、海外の本を翻訳されている方など様々です。
悩み事として、もちろん病気による制約はあるはずですが、生きていく以上、誰にとっても病気にかかる可能性や様々な問題に遭遇する可能性はあります。
障害を持つお子さんを、愛情いっぱいに育てて、いきいきと生活されている方々はたくさんいます。
高齢出産でダウン症候群のお子さんを育てている方の話
私の周りも高齢出産でダウン症候群のお子さんを育てている方で、下記のようなお話がありました。
子供に障害があることを知らされることは、突然、喪失感を味わう経験で、その喪失感とは自分の子供に対して、「こんな子供だったらいいのに」と抱いていた夢が失われることを意味しました。
知的障害という病気を突きつけられ、自分が描いていた理想が崩される経験をしました。少しずつ、そのことを受容しながら、子育てを続けてきました。
しかし、たとえ病気がない子供を授かっていたとしても、日々の子育ての中で、少しずつこんなはずではなかったという喪失感を積み重ねていくことは、同じように経験されることではないでしょうか。
そもそも子育てとは、喪失感を積み重ねていくことではないでしょうか。子供について親が思い描いていた理想像とは違う現実を突きつけられて味わう喪失感は、子供に障害がなくても同じかもしれません。
何かをうまくできない人がいて、それを周囲の人が支える社会を作るためにも、教育や文化が必要なのではないでしょうか。
このような話がありました。
障害を持つお子さんであっても、それを受け入れて子育てを続けていくことが大切です。
病気であることと幸せであることは違う
高齢出産の方でなくても、赤ちゃんに先天性の病気が見つかると、両親は「ショック」、「悲しみや怒り」、「否認」という過程を経て、次第に事実を受け入れて立ち上がっていきます。
最終的に悩み事があっても、「自分達が出来ることを、愛情をもってやっていこう」という境地に達する方が多いように思います。
出産は自然の営みですが、ごくまれにお母さんが合併症で命を落とすことがあります。また赤ちゃんがお母さんのお腹の中で亡くなることもあります。
健康な赤ちゃんが産まれてくることは、決して当たり前のことではありません。障害がある子を産み育てながら、悩み事がある中で、たくさんの事を経験し、心豊かな生活送ってる方はたくさんおられます。
知的障害のある方たちが参加するオリンピックがあります。そこでは参加者がスポーツの楽しみを分かち合い、お互いを思いやる姿には、現代の競争社会が失った「楽しむためのスポーツ」の姿があります。
染色体異常があるかどうか、病気があるかどうか、幸せであるかどうかは全く違うことであることを気づかせてくれると思います。
どんなお子さんでも愛情を持って育てていき、幸せな生活を送ってほしいと願っています。
産まないという選択をした場合
高齢出産であるかどうかにかかわらず、出生前診断で夫婦が中絶するかどうかを悩むときには、様々な情報や考え方を説明し、授かった命を育てる選択肢についても考えていく必要があります。
その悩み事の中で、2人が妊娠継続を諦める選択をした場合には、その選択を尊重するのが医師の立場だと考えます。諦める選択をした人に対する心のケアは重要ですが、中期中絶を安全に行うこともまた求められています。
中期中絶とは、あらかじめ海藻などでできた細い管を子宮頸管(けいかん)に挿入して「頸管拡張」を行い、その上で子宮収縮を起こす薬を使用して陣痛を起こします。
これまでに出産の経験のない高齢出産の方や、子宮筋腫を合併している方、帝王切開の既往歴のある方などは特にこの頸管拡張が大切です。
妊娠初期の自然流産の時に行う子宮内容除去術は、静脈麻酔をおこなって眠ってる間に手術が終了します。しかし、中期中絶はむしろ出産と同じ形を取ります。
自然流産とは違い、中絶を選択したときには、喪失体験とともに、何らかの罪悪感を伴うことがあるでしょう。
その罪悪感を引き受けつつ、「赤ちゃんのことを忘れないでいてあげること」が重要だと考えます。
中絶経験をなかったことにすることは決してできません。赤ちゃんを思う気持ちは、無理に封じ込められるものではありません。少しの時間だけでも一緒にいられたことに感謝し、忘れないであげてほしいものです。
中絶経験をしても、赤ちゃんのことは忘れないでいてあげてください。
流産をどう受け止めるか
自然流産は、すべての妊娠の8~15%の頻度で起こります。しかし高齢出産となる母親の年齢が、35歳から39歳の場合には約20%、40歳以上になると約40%に増加します。
高齢出産を控えた方には、これは大きな悩み事の1つとなっています。
「妊娠21週6日」までの妊娠の中断を「流産」、「妊娠22週0日を含め、それ以降妊娠36週6日まで」の分娩を「早産」と定義しています。「流産」はさらに妊娠12週未満の「早期流産」と妊娠12週以降22週未満の「後期流産」に分類されます。
妊娠12週以降の後期流産や中絶の場合には、「死産届」の提出が必要になってきます。自然流産の原因を調べた研究では、染色体異常が高い頻度で認められています。
流産したお母さんは「自分が無理をしたから」と自責感にかられたり、次の妊娠が恐くなったりすることがあります。
しかし、流産の原因の多くは、母親では防ぐことができません。またたとえ流産になったとしても、医学的には「妊娠ができた」ということです。排卵があり、受精ができ、卵管が通過でき、子宮内に着床できたということを意味しています。
後期流産や中絶の場合には、死産後に赤ちゃんと面会があります。ほとんどすべての方が、赤ちゃんと面会し、抱っこして一緒の時間を過ごしています。希望があれば、足形を取ったり、手形を取ったりすることができます。
後期流産では、役所に死産届を提出し、役所から埋葬許可証をもらい、火葬します。棺(ひつぎ)にお母さんの大好きな花を添えて飾ったり、手作りの洋服を着せてあげたり、手紙を入れたりするなどして赤ちゃんを送り出す方もおられます。
このように赤ちゃんとのお別れを受け入れていくことが、傷を癒やしていくための大切な過程となります。
高齢出産になればなるほど、流産のリスクは高くなります。
苦しみを受け止める
高齢出産の方で長い間の不妊治療を経て、妊娠したけれど、残念ながら流産してしまった場合は、特に大きな悩み事となり、悲嘆にくれてしまうかもしれません。
それは誰もが予想できないことです。悲しむ気持ちを無理に抑えなくても構わないでしょう。必ずや時間が解決してくれるはずです。
女性にとって、生殖可能な時期において、子供を産む選択、産まない選択、そして望んだけれども授からなかったことを受け入れる選択があります。
どの立場であっても、それぞれに何らかの葛藤(かっとう)や悩み事があったはずです。子供がいない人生を心豊かに送ることは十分に可能です。
自分の仕事を通じて、やりがいや人との関わりを持つこともできます。専業主婦の場合は、ボランティア活動などで、地域の人々と関わったりすることもできます。また趣味の世界を広げたりすることもできるでしょう。
子供と触れ合う経験は、血のつながった親子だけでなく、職場の若い同僚と関わるなど、社会の中でいろいろな形で行うことができます。
高齢出産であろうとなかろうと、うまくいかない経験や、大きな悩み事、悲しくつらい気持ちが全くない人生はありません。思うようにいかない経験は、長い目で見れば、人として成長していく機会にもなるはずです。
流産となった場合でも必ず時間が解決してくれるので、無理に悩まないことです。
体外受精のことを子供に伝えるか否か
高齢出産の方に多いのですが、体外受精のことを子供に伝えるか、という悩み事があります。
現在では、体外受精による妊娠によって生まれる赤ちゃんは、日本全体で27人に1人の割合となっています。 2005年当時では100人に1人の割合でしたから、急激に増加していることがわかります。
そして今後も増えていくことが予想されます。 27人に1人という割合は、小学校の1クラスに1人ぐらいというイメージになります。
昭和の時代は、女性が仕事を持ちながら出産・育児をすることがとても困難な時代でした。仕事に打ち込んでいるうちに、出産のタイミングを逃してしまうことも多かったのです。
一方で平成世代には、高齢出産や不妊治療を受けた人も少なくありません。不妊で苦しむ人にとっては、それは大切な治療です。
しかし母体への負担や不妊治療に伴い、多くの時間やエネルギーを費やすといった問題を考えると、自然に妊娠できるのであれば、それに勝る事はないと考えています。
高齢出産ではなく、今現在、10代や20代の人たちには、女性の妊娠・出産時期には年齢の制約があることを正しく知り、仕事や勉強を続けながら、同時に安全に妊娠・出産することも大切に考えてほしいと思います。
そして「長い目で仕事のキャリアを積んでいけばいい」と考えられる社会を作っていくことが大切なことだと考えています。
以前は、初診の問診票に「体外受精、親には内緒」と書かれていることがありました。そのような記述を最近あまり見ないのは、体外受精による妊娠が非常に増え、あまり特別なことと考えられなくなってきたためだと思います。
いずれにしても、夫婦の気持ち次第で他の家族に無理に話す必要はないように思います。体外受精は子供が大きくなってきた時に話すべきでしょうか?
それは夫婦の気持ち次第ですが、子供にはいつか伝えるべきではないかと考えます。いろいろな側面から、命の尊さを伝えることにもつながるのではないでしょうか。
体外受精の場合は、そのことをいつか子供には伝え、命の尊さをお話してみてください。
妊娠中の仕事は?
妊娠中に仕事を頑張るかどうかは、悩み事の1つだと思います。妊娠中でも妊娠前と変わらずに仕事を頑張るということは決して美談ではないと思います。
赤ちゃんの命を守ることができるのは、子宮の中で赤ちゃんを育てているお母さんだけです。
体調が悪い時に、しっかりと職場の上司に伝えて、病休制度などを利用して休養することが大切です。高齢出産でなくても、自分にとっての最善のことをすることが赤ちゃんへの責任を果たすことにつながります。
妊娠の報告をいつするか、職場が忙しかったり、過去に流産の経験があったりする場合は、大きな悩み事になるかもしれません。ただ妊娠を届けることで、業務内容や勤務時間等について配慮してもらえる可能性もあります。
上司には、予定日が決まり、母子手帳を受け取った頃には報告するといいでしょう。自分では悩み事だと思っていても、おめでとうと祝福してもらえることで、元気をもらえることもあります。
また妊娠初期につわりが辛い場合などは、なおさらだと思います。体調が悪いことを職場で理解してもらうほうが、仕事がやりやすいはずです。
妊娠したら職場の上司に報告して、業務内容や勤務時間を配慮してもらいましょう。
すぐ引き継げるような仕事に切り替える
妊婦健診などで休暇をとると、同僚たちに気兼ねすることがあるかもしれません。
しかし、「何を優先するか」を考え、効率よく仕事をし、あらかじめ不在となる時間を伝えておけば、そんなに周りにも負担をかけずに済むはずです。
また妊婦検診を受ける時間を確保することは、男女雇用機会均等法で事業主に義務付けられています。
仕事をする上で、計画性を持ち、確実にできる仕事をし、難しい仕事を抱え込まないで早めに誰かに相談する、といったことを心がけていきたいものです。
妊娠経過中に、入院が必要となり、急に長期間仕事を休まなければならなくなる可能性もあります。いつでも引継ぎができるように、仕事の進捗状況などがわかるように、メモをとると良いでしょう。
医師から、妊娠中の通勤の緩和、休憩時間の延長、休業、指導勤務時間の短縮、作業の制限などの指導を受けた場合には、会社に対応してもらうことが可能です。「母性健康管理指導事項連絡カード」に記入してもらい、会社に提出するといいでしょう。
職場で元気に出産し、仕事と育児をうまく両立できる人がいるということは、次に出産される方にとっても、妊娠・出産が安心してできる職場であるということです。
もし職場や身近な環境に経験者がいるならば、悩み事を抱えていないで、どんなふうに妊娠期を過ごしたか、産後のこと、時間のやりくりのコツなどを是非相談してみてください。そして高齢出産の方には、特に体験談を聞くといいでしょう。
みんなに支えながら出産し、そして自分の子育てに余裕ができたら、今度は次に妊娠・出産する人を支える側に回ると良いでしょう。
そのように立場が変わっていき、個人の生活も充実し、また職場全体としても質の高い仕事が達成できるのではないかと考えます。
妊娠したら、悩み事を抱えないで早めに上司に報告し、経験者に相談してみましょう。
妊娠中の服薬について
高齢出産でなくても服薬について悩み事を抱えている方もおられると思います。それでは簡単に説明していきます。
低容量ピルなど、妊娠する前に飲んだ薬に関しては、胎児の影響を考える必要はありません。
妊娠に気づかずに服薬を続けていた場合には、薬の種類、内服した期間が妊娠のどの時期にあたるかなどにより、その影響は違ってきます。市販薬を始めとする一般薬は、問題のないことがほとんどです。
心配な場合には、医療機関に相談してみてください。大事な事は、妊娠時期の違いにより、薬の影響が異なるということです。
「排卵から妊娠3週末まで」の服薬は奇形は引き起こす事はなく、心配ありません。もし影響が大きければ、流産になる可能性はありますが、流産にならなければその影響は修復されます。
しかし、「妊娠4週以降から7週末まで」は「器官形成期」であり、「臨界期」とも呼ばれます。子宮内の赤ちゃんの主要な臓器が形成される時期であり、薬に対して最も影響を受けやすい時期であります。この期間の薬の服用はできれば控えた方がいいです。
「妊娠8週以降から12週末まで」は大きな奇形は起こりませんが、小さな奇形は起こす可能性がある時期です。口蓋(こうがい)や性器などの形成はまだ続いている時期です。
「妊娠13週以降」は器官形成は終わっていますが、胎児の機能への影響や毒性が問題となる時期です。ぜんそくや花粉症などのアレルギー性疾患や、てんかんなどの基礎疾患で内服薬を飲んでいる場合は、担当医に相談してください。
自己判断で服用を止めると、母体の状態が悪化してかえって赤ちゃんに悪影響を及ぼすことがあります。むしろきちんと服薬を続け、母体が安定した状態で妊娠期を過ごすことを優先します。
服薬がない場合でも、先天性異常は、3~4%の確率で誰にでも起こります。この3~4%という確率と比較して、薬の胎児への影響が統計学的に高くなるかどうかが真のリスクになります。
一方で、薬の影響は、未来の子どもの発達段階まで含め、長期間にわたって判断することが必要です。また現時点で分かっていない副作用が、将来問題となる可能性についても否定できません。
ですので、比較的安全と考えられる薬についても、薬の添付文書では、「治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されているのです。
以上をまとめると、下記の様になります。
- 妊娠中は不要な薬は使用しない
- 薬の種類や妊娠の時期により胎児への影響は異なる
- 母体にとって治療上、必要な薬は最小量をきちんと内服する
- 薬の胎児への影響について担当医とよく相談する
自分の判断で薬の服用をやめるのではなく、必ず医師に相談してみましょう。